台風での出社をめぐる是非。根底にある話はなぜか皆、無視している
台風10号の通過によって、多くの地域で交通網が混乱する結果となった。毎度のことなのだが、台風や大雨がやってくると、その状況でも出社することの是非についてネットで激論となる。多くが水掛け論に終わるのだが、その理由は、この問題の根底部分について触れることを皆が避けているからである。
日本企業で精神論が重視される理由
常識で考えれば分かることだが、暴風雨で交通が乱れる中、半日以上もかけて、わざわざ出社する合理的な意味などほとんどない。もちろん、インフラ系などどうしても出社が必要な職場は話は別だが、そうではない一般的な職場では、その日は休むか在宅勤務にした方が圧倒的に効率がよいだろう。
だが、こうした話に対してはかなりの反発があるのも事実だ。一定数以上のビジネスマンが精神論を重視しているからこそ、サービス残業や台風での出社という話はなくならないのだ。
では、そもそもなぜこうした精神論が重視されるのだろうか。その理由は、日本では基本的に成果ではなく、時間で仕事が評価されているからである。では、なぜ成果ではなく、時間で評価するのかといえば、それは、終身雇用が原則であり、社内では競争しないことが暗黙の了解となっているからである。
一般論として、1人の人間のスキルや感覚が、半永久的に通用することはありえない。常に競争が行われ、人が入れ替わらないと企業の競争力は維持できない。人も、こうした競争を通じて、新しいスキルや感覚を身につけていく。つまり競争力を維持するために、組織は一定割合で社員を入れ替える必要があるのだ。
こうした環境が維持されているからこそ、時間ではなく、成果で評価するということが可能になる。
結局は終身雇用の問題
だが、多くの日本企業では原則として人の入れ替えはない。成果主義で差を付けたところで、人は入れ替わらないのだから大きな意味はない。また終身雇用を守るためには、年功序列的な賃金も維持しなければならず、ますます、従業員の中で大きな待遇差は付けにくくなる。
このような状況が長く続くと、成果ではなく、時間で評価する方が合理的になってくる。成果主義が何度も叫ばれながら、日本企業でほとんど定着しなかったのは、日本人に成果主義が向いていないのではなく、戦後日本の労働慣行と成果主義が両立しにくいからである。
仕事が成果で評価されるようになっていれば、半日もかけて会社に出社する意味はほとんどなくなり、出社を強要するような雰囲気もなくなってくるだろう。出社したい人は出社し、そうでない人は在宅にという形に落ち着くはずだ。
ところが、こうした雇用という根底にある問題は多くの人が触れたがらない。台風での出社を非合理的と批判している人も、こうした非合理的な社風がなくなる代わりに、終身雇用という権利もなくなるということであれば、多くが、台風での出社を選択することになるだろう。
したがって「出世を考えるなら、台風でも出社して、忠誠心をアピールすべき」という話もあながちウソではなくなってくる。あまりお勧めはしないが、これが日本の組織の実態なのである。
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