セブン&アイ・ホールディングス鈴木会長辞任から考える出世の法則
セブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文会長兼CEOがグループの経営から退く意向を表明した。直接の原因は、自らが提示した人事案が取締役会で否決されたことだが、本当の原因は子息の世襲問題といわれる。
鈴木氏は創業家から会社を託され、創業家から追放された
鈴木氏は、今でこそ同社の株式を一部所有しているが、もともとはイトーヨーカ堂に社員として入社した人物であり、いわゆるサラリーマン社長である。イトーヨーカ堂は、その名前から分かるとおり、伊藤家が創業した企業であり、当初は、伊藤家の同族経営だった。
創業家は、一族出身者ではなく、高い実績を残した鈴木氏を社長に据えた。一族以外の人物に経営を託すことについては、紆余曲折があったが、最終的には実力のある鈴木氏に会社を任せたわけである。
ところが、今回、鈴木氏を辞任に追い込んだのも、やはり創業家といわれる。その理由は、鈴木氏に自身の子息を社長に据えようとする動きがあり、これを株主から厳しく批判されたからである。
この件については鈴木氏は否定しているものの、関係者の多くは、今回、鈴木氏が提案した人事案は、将来、自身の息子を社長に据えるための布石であると認識している。
つまり伊藤家は、同族経営から決別し、実績のある鈴木氏に会社を託したものの、今度は鈴木氏が、自身の子供を社長に据えようとして、伊藤家からノーを突きつけられたという図式だ。
世の中では、世襲人事はすべて同じように扱われているが、会社オーナーの子息が社長に就任することと、単なるサラリーマン社長の息子がコネで社長に就任することは、天と地ほど異なる。
サラリーマンが役職に付くためには客観的な実績が必要
創業家の出身者であれば、経営の舵取りを誤った場合、自身に数十あるいは数百億円もの損失が発生することになり、これが安易な情実人事を防ぐ効果をもたらしている。
実際、伊藤家は能力のない身内に会社を任せるよりも、鈴木氏に任せた方がよいと判断したからこそ、鈴木氏は社長に抜擢された。鈴木氏にはコンビニ事業の立ち上げという明確な実績があり、これが客観性を担保したのである。
一方、サラリーマン経営者の場合には、仮に経営に失敗しても自身には金銭的な被害が発生しないため、安易に情実人事を行ってしまいがちである。このため、サラリーマン経営者の子息が会社の経営を引き継ぐ行為については、市場から厳しい目で見られることになる。
今回、鈴木氏が、本当に息子を社長に据えようとしたのかは定かではないが、少なくとも周囲からそう解釈されたのは事実である。こうなってしまうと、創業家や市場は黙っていないだろう。
サラリーマンは実力を評価されてポストに就くことが大前提となる。仮にコネという部分があったとしても、実績があるから地位に就くという原則は曲げてはならない。
実際にどの程度実力があるのかはともかく、実力があると周囲が認める材料がなければ、出世は難しいと考えた方がよい。
「俺は実力があるのに・・・」と思っている人は、少し冷静に自身を見つめ直して欲しい。周囲が完璧に実力として認める要素が揃っていなければ、それは実力とは認定されない可能性がある。出世を考えるならば、自身をお化粧するという発想も持っていて損はない。
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